動く養生と静かな養生

和氣香風では、漢方薬や鍼灸による治療だけでなく、「養生」をとても大切にしています。

養生という言葉は少し古く聞こえるかもしれませんが、今でいう「セルフケア」に近いものです。ただ、私たちが考える養生は、もう少し広いものです。

生きていくこと。

そして、生きていくための力を、日々の暮らしの中で丁寧に養っていくこと。

貝原益軒の『養生訓』にも見られるように、養生の範囲はとても広いものですが、難しく考える必要はありません。

季節や体調に合ったものを適量、楽しく食べる。
ぐっすり眠れる環境をつくる。
着心地のよい服を着る。
適度に身体を動かし、適度に休む。
自分にとって心地よい「衣・食・住」を整える。
簡単に言えば、そういうことです。

決して無理をしない。頑張りすぎない。

でも、ちゃんと身体のこと、自分のことを考える。
頑張って無理をしていたら、それはもう養生ではありませんね。

目次

和氣香風の五つの養生

和氣香風が提案する養生は主に、
「食」「漢方薬」「お灸」「身体」「心」
の五つの柱で考えています。
妻の香里は薬膳の知識を使った食の養生と漢方薬を、私はお灸と、身体や心の養生をお伝えしています。

ただ、この五つは完全に別のものではありません。食べることは心にも関わりますし、身体を動かせば気分が変わります。心が静かになれば、身体の力が抜けることもあります。東洋医学では、身体と心を切り離して考えません。

そこで、身体と心を養う方法を、さらに二つの方向から考えています。
「動く養生」と「静かな養生」です。

まず3分、身体を動かしてみる

和氣香風では、
「まず3分、身体を動かしてみる」
ことをお勧めしています。

伸ばす、縮める、捻る、揺らす。難しい運動も、複雑な動作も必要ありません。

「3分でも長いわ!」という人なら、1分でも、一回だけ身体を伸ばして終わってもいい。もう少しできるなら、5分、10分と続けてください。

大切なのは、「30分やらなければ意味がない」「毎日やらなければいけない」と、新しい義務をつくらないことです。

厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』も、「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことを基本にしています。1〜2分ほどの短い身体活動を積み重ねる研究や、短時間の運動を一日に何度か挟む「exercise snacks」の研究も進んでいます。こうした研究では、心肺体力、血圧、血糖などへの影響も調べられています。

もちろん「3分動けば健康になる」という意味ではありません。
でも、「3分では短すぎて意味がない」とも言えない。
まず3分は、身体を変える魔法の数字ではなく、身体を動かす生活の入口なのです。
歩く、ストレッチ、ラジオ体操、何でも構いません。アスリートのトレーニングではなく、「養生」として、誰とも競わず、自分の体調に合わせて気持ちよく動かす。そこから始めてください。

「動けない」から「今日は、動かない」へ

一方で、身体を動かした方がよい人ばかりではありません。療養中の人、入院中の人、痛みが強い人、気力が出ない人。病気や治療によって、動くこと自体が負担になる人もいます。妻の香里も、その一人でした。

そういう人に「頑張って運動しましょう!」と言っても、かえって負担になることがあります。
また、休むこと自体にネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。
何もしない自分はダメなのではないか。早く元気にならなければ。早く仕事に戻らなければ。「早く治りたい」と思うからこそ、頑張ってしまうのです。

でも、頑張らない方がよいときもあります。
そこで、少し発想を変えてみます。

「動けない」ではなく、「今日は、動かない」。
今の身体を考えて、「今日は休む」と自分で選ぶ。消極的な「動けない」から、積極的な「動かない」へ。これが和氣香風のもう一つの養生、「静かな養生」です。気功では、静かに身体と心を整える方法を「静功」と呼びます(動く方法は動功)。

「頑張ることが癖になっていた」

先日、心臓の病気で療養している方から相談を受けました。早く治りたい気持ちが強く、少し体調が良いと何か身体に良いことをしようとして、呼吸も意識して深くしていたそうです。

私たち夫婦は、「今は、あれこれしないことも大切ですよ」とお伝えしました。

まず、呼吸が一番楽になる姿勢を探す。医療上問題がなく、少し動かせるなら、手足の指を軽く動かす。両手をおヘソの上に軽く置いて、目を閉じる。呼吸を整えようとせず、深くしようともせず、そのときの自然な呼吸を感じてみる。肩や胸、顔に力が入っていることに気づいたら、抜けそうなら少しだけ抜く。「今は速いな」「今は浅いな」「ドキドキしているな」と、ただ感じる。変わるも変わらないも、身体に任せます。

時間は数分、1分でも数十秒でも構いません。そのまま眠ってもいい。大切なのは、「楽であること」と「頑張らないこと」です。

後日、その方からこう返ってきました。深呼吸を意識していたけれど、自然な呼吸の方が楽だったこと。気づかないうちに身体のあちこちに力が入っていたこと。そして、
「ずっと『頑張る』ことが癖になっていた気がします」
という言葉でした。とても印象に残っています。

病気を治すことまで、頑張らなくてもいい

香里が、拡張型心筋症で入院していたとき、私たち夫婦も同じように頑張ろうとしていました。何かできることはないか、少しでも身体に良いことをしたい。その気持ちが、かえって身体に負担をかけてしまったこともあります。

そこで考え方を変えました。
呼吸法を頑張らない。瞑想を上手にやろうとしない。本を読んで勉強することもしない。ただ静かに横になって、自分の身体と自然な呼吸に少し意識を向ける。香里は入院中、そんな時間を意識的につくっていました。

その後、なかなか安定しなかった病状が、少しずつ落ち着いていきました。

もちろん、「静かにしていたから落ち着いた」と言い切ることはできません。

病院での治療、薬、食事管理、リハビリ、医師や看護師をはじめとする医療スタッフの支え。さまざまな要因が重なっています。何がどこまで影響したのか、私たちにも分かりません。
ただ、医療を受けながら、「あえて何もしない時間」を積極的に取り入れた時期に、病状が落ち着いていったことも、私たちが経験した事実の一つです。

現代では、リラクゼーションやマインドフルネスなど、身体へ静かに注意を向ける方法も研究されています。
ストレスや不安、血圧や心拍など、心身に関係するさまざまな指標への影響が調べられています。

心不全の患者さんを対象に、リラクゼーションや瞑想などと、息苦しさ、睡眠、疲労感、生活の質との関係を調べた研究もあります(論文の要旨)。

ただし、やはり結果にはばらつきがあり、病気そのものを治すものではなく、私たちの「静かな養生」と同じものでもありません。それでも、何もしない時間をつくり、何も変えようとせずに観察することが心身にどう影響するのかは、研究の対象になっています。

何もしない3分

静かな養生に、難しい方法は必要ありません。楽な姿勢になって、自然に呼吸する。そして少しだけ、「今、自分はどんな呼吸をしているのだろう」「身体のどこに力が入っているだろう」と感じてみる。何かに気づいても、直そうとしない。

まず3分。長ければ1分でも、もっと短くてもいい。途中で眠ってしまっても構いません。

療養中の方や病気のある方は、運動量や安静度について、医師や医療スタッフの指示を優先してください。

動くことと、静かにすること

では、動くのと静かにするのと、どちらが身体に良いのでしょうか。私は、どちらも必要だと思っています。

禅の修行にも「静」と「動」があります。坐禅で静かに坐り、ゆっくり歩く「経行(きんひん)」や、掃除や炊事など身体を使う「作務(さむ)」を行い、また坐る。静かにする、動く、また静かにする。これを繰り返します。

大切なのは、その人が今、どこにいるのかです。そこで入口が変わります。

元気だけれど、ほとんど身体を動かしていない人なら、まず3分動いてみる。病気や治療で動くことが大きな負担になっている人なら、まず積極的に休む。静かな時間をつくって回復を待ち、医療者の判断のもとで動けるようになってきたら、少しずつ動く時間を増やす。十分に動けるようになったら、動く、静かにする、また動く。

身体と心は、きれいに切り離せるものではありません。だから、その時々の身体と心を見ながら、必要な方を選べばいいのです。

今日は元気だから、少し動く。

今日は疲れているから、静かにする。

今は療養中だから、あえて休む。

それもまた、養生です。

何かをすることだけが、身体を大切にすることではありません。動くことも、静かにすることも、食べることも、眠ることも、自分の身体や心に少し意識を向けることも、すべて「生きていく力」を養うことにつながっていく。それが、私たち和氣香風が考えている「養生」です。

これからの和氣香風の養生コラム

今後、和氣香風コラムでは、「食・漢方薬・お灸・身体・心」という五つの養生を、それぞれもう少し詳しく取り上げていきます。臨床で経験した症例や、暮らしの中でできる具体的な方法、関連する現代の研究なども紹介していく予定です。

すべての人に同じ養生法が合うわけではありません。そのつど、「今の自分には、何が必要なのだろう」と、身体と心に少し目を向けながら、参考にしていただければと思います。

無理をせず、頑張りすぎず。できることから、少しずつ。それが養生の始まりです。

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鍼灸師 国際気功師
山本浩士