目次
以前、このコラムで「肘頭骨折」の患者さんについて何度か紹介しました。
肘頭というのは、肘の後ろ側にある、いわゆる「肘の出っ張り」の部分ですね。
転倒などでここを強く打つと骨折することがあり、骨折の状態によっては手術が必要になります。
2023年、和氣香風にも肘頭骨折の手術後に来院された方がいました。
その経過を、
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治🔗」(2023年5月13日)
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治〜その後〜🔗」(2023年6月5日)
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治~経過良好~🔗」(2023年7月1日)
として、コラムに残しました。
その後、2025年に過去の記事を読んで肘頭骨折の手術後、肘の動きが十分に戻らず困っていた方が、来院されました。
「久々の肘頭骨折🔗」(2025年5月27日)
そして2026年。
また、肘頭骨折の記事を読んだという方が和氣香風を訪ねて来られました。
以前の記事を書いたときには、
「こんな症例報告を読む人がいるのだろうか」
と思っていました。
ところが数年経っても、検索して昔の記事を見つけ、自分と同じような症例を読んで来られる方がいます。
それだけ、骨折そのものが治ったあとにも、
「肘が曲がらない、伸ばせない」
「以前のように腕が使えない」
ということで困っている方がいるのだと思いました。
【骨がついてからが大変】
骨折したとき、まず大切なのは、折れた骨をきちんと治すことです。
肘頭骨折では、骨折のずれや不安定性が大きい場合には手術が選択されることが多く、状態によっては手術をせずに治療することもあります。
和氣香風へ来られる方は、手術でプレートなどを使って固定された後の方が多いです。
必要な治療を受け、骨の癒合を待つ。
そして医師や理学療法士などの指導のもと、少しずつリハビリを進めていきます。
しかし、皆さんここからが大変だと言います。
「骨がついたこと」、あるいは「プレートでしっかり固定されていること」と、「以前と同じように身体を使えること」は、必ずしも同じではありません。
特に肘は、外傷や手術後に関節の動きが制限される「拘縮」が起こることがあります。
日常生活では、
顔を洗う。
髪を触る。
食事をする。
服を着る。
こうした何気ない動作にも、肘の曲げ伸ばしが必要です。
これができなくなるだけでも、毎日の生活ではとても不便ですし、大きなストレスになります。
【「肘だけ」を見ません】
以前の症例でも今回も、肘そのものだけではなく、手首や前腕、肩などを確認しながら施術しています。
身体全体のつながりが重要だからです。
手首を動かす。
前腕を回す。
肘を曲げる。
肩を動かす。
肩甲骨や胸郭が動く。
私たちは普段、一つひとつの動作を別々に意識してはいません。
例えばコーヒーを飲むときに、
「指の関節をこう動かして、手首をこの角度にして、肘をこう曲げて、肩をこう動かして……」
なんて考えませんよね。
ただ「コーヒーを取ろう」「飲もう」と思うだけで、あとは身体が自動的に動いてくれます。
しかし実際の身体では、指、手首、肘、肩、肩甲骨、体幹などがつながりながら、一つの動作を作っています。
「手を顔に持っていく」という動作ひとつを考えても、肘だけが働いているわけではありません。
ですから私は、「曲がらない肘を、もっと曲げよう」とするだけではなく、身体全体の動きの中で、どこがうまくつながっていないのかを見ていきます。
【痛みを我慢して動かすことはしません】
実際の施術では、鍼や軽い手技を使いながら身体の緊張を調整し、手首、肘、肩などの動きを確認していきます。
また、患者さんの多くが、
「リハビリが痛くてつらい」
と仰います。
ですから私は、できるだけ痛みが出ないように、柔らかく施術します。
強く引っ張ったり、痛みを我慢して無理に曲げたりすることを目的にはしていません。
必要なところへ、必要なだけ刺激する。
そして、身体がどう反応するのかを見る。
これは、私が治療で大切にしていることの一つです。
目標にしているのも、単に「何度曲がった」という数字だけではありません。
「顔まで手が届くようになった」
「髪を触れるようになった」
「シャツのボタンを留められるようになった」
そんな日常動作が少しずつ戻ってくることを大切にしています。
以前の記事でも、施術後に「顔を洗えるようになった」「額や鼻まで手が届くようになった」といった変化を紹介しました。
【今回の方は、3回目の施術を終えました】
今回の方についても、施術前後の動きを確認しながら経過を見ています。
先日、3回目の施術をしました。
最初は患側の手で顔を触ることも難しかったのですが、現在はしっかり顔を洗えるようになっています。
一方で、肘を伸ばす動きには、まだ課題が残っています。
さらに確認すると、患側の握力も弱くなっていました。
そこで、肘だけを動かすのではなく、肩関節、肩甲骨、体幹までが連動するように身体を誘導しました。
患者さんの腕を軽く支え、牽引方向へ誘導しながら、ゆっくりと回していきます。
その後、もう一度握る力を確認してもらうと、施術前には明らかだった左右差が、その場ではほとんど分からない程度になり、ご本人も「力が入りやすくなった」と自覚されていました。
さらに、最初は十分に伸ばせなかった肘も、来院時より伸ばしやすくなっていることを、ご本人にも確認していただきました。
肘に強い刺激を加えたわけではありません。
身体の別の場所を動かすことで、肘や手の動きまで変わることがあります。
こういう変化を見るたびに、身体は一つにつながって動いているのだと改めて感じます。
もちろん、同じ「肘頭骨折」という診断名でも、骨折の状態、手術方法、固定期間、経過した時間、筋肉や関節の状態は一人ひとり違います。
ですから、
「この方法をすれば必ず曲がる」
とは言えません。
その人の身体を実際に見なければ分からないことがあります。
【鍼灸は、整形外科やリハビリの代わりではありません】
ここは、とても大切なところです。
骨折後に鍼灸を受けるからといって、鍼で骨折そのものを治すということではありません。
骨折後は、まず整形外科で骨の癒合状態や手術部位の状態などを確認することが大前提です。
必要なリハビリも継続してください。
私たち鍼灸師ができることは、それとは少し違います。
骨折そのものは安定している。
医師から動かしてよいと言われている。
リハビリも続けている。
それでも、
「なかなか肘が曲がらない、伸ばせない」
「日常生活で使いにくさが残っている」
そんなときに、鍼灸や身体全体の調整という別の方向から身体を見てみる。
その選択肢の一つとして、鍼灸があると私は考えています。
【数年前の記事が、誰かの役に立っていた】
私はこのコラムに、日々の臨床で経験したことを時々書いています。
そうして、数年前に書いた小さな症例記録を、今まさに同じことで困っている誰かが検索して見つけてくださる。
これは、本当に嬉しいです。
今回の患者さんも、そうして和氣香風を見つけてくださいました。
だから、これからも良い結果だけを書くのではなく、どのように身体を見たのか、何を考えて施術したのか、そしてその後どうなったのか。
できるだけ残していこうと思います。
同じ「肘が曲がらない、伸ばせない」という症状でも、原因や状態は一人ひとり違います。
過去の記事も含めて、ご自身の状態を考えるための参考にしていただければ幸いです。
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治🔗」(2023年5月13日)
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治〜その後〜🔗」(2023年6月5日)
「肘頭骨折に対する漢方と鍼灸療治~経過良好~🔗」(2023年7月1日)
「久々の肘頭骨折🔗」(2025年5月27日)
【同じような症状でお困りの方へ】
肘頭骨折や肘の手術後に動きにくさが残っている場合、まず現在の骨や関節の状態を整形外科で確認することが大切です。
そのうえで、
「リハビリを続けているけれど、動きにくさが残っている」
「日常生活で腕を使いにくい」
「鍼灸という別の方向からも身体を見てみたい」
という方はご相談ください。
現在の状態、手術を受けた時期、現在行っているリハビリなどを伺いながら、鍼灸で対応できる状態かどうかも含めて拝見します。
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