五十肩の治療例


先日、久しぶりに往診へ招かれました。
80代後半の女性で「肩が痛くて腕があがらなく困っている」というものでした。

話を伺うと、すでに病院で検査を受けたが異常は見られず、医師から「五十肩」と診断されたそうです。
また「年齢もあるので、治らないかも。」と言われ、痛み止めの湿布薬を出されただけのようです。

こういう話はよくあって、「病院の検査で異常はないと言われた」「でも痛くて仕方がないの」と相談されることは少なくありません。

10年ほど前に、90代の女性から「腰が痛くて歩くのがつらい」と相談を受けました。
「検査ではどこも異常がないからよかったねー」と言われて帰されたそうです。
「検査よりも、私は痛いのをなんとかしてほしいのに・・・」と、悲しそうな顔をしてウチに来られたことを思い出します。

「検査では異常がないから問題ない!」
確かにそれはそうなんですが、でも、目の前の人は痛くてツラいのをなんとかして欲しいわけですからね。
異常がないわけでも、問題がないわけでも、できることがない訳でもないのです。

こういう時に、全国の病院に「鍼灸科」を配備してほしいと心から思います。

この方は、痛み止めの注射も嫌なので、我慢していたそうです。
でも、「腕が痛くて洗濯物が干しにくい」ことと「補聴器を装着する時に、腕が痛くてたまらない」という2点がつらく、そこを改善させたいとお願いされました。

 

〜五十肩〜

五十肩、四十肩というのは俗称で、現代医学では「肩関節周囲炎」と呼ばれます。
読んで字の如く、肩関節周りで炎症が起きている状態ですね。

五十肩も四十肩も、呼び名が違うだけで同じものを指しますが、要は「腕を動かすと肩が痛い」のです。
特に、髪を結ぶような動作「結髪動作」や、帯を結ぶような「結帯動作」が痛くて出来ない(あるいは難しい)という動作痛が発現しているのが特徴的です。

 

ただ、肩が痛くて腕が上げられなければ全て五十肩か?と言えば違います。

似たような症状に、「腱板断裂」「石灰沈着性腱板炎」などが挙げられます。
または、「糖尿病」「関節リウマチ」などからくる肩の痛みもあります。

これらは、画像診断や血液検査などで判定されますが、簡単な徒手検査や動作確認でもある程度の判断は可能です。
鍼灸院では、徒手検査で状態の確認はできても「診断」はできませんので、診断してほしい方は病院へ行ってくださいね。

 

〜五十肩と漢方医学〜

漢方では、五十肩のような痛みは「痺証(ひしょう)」と呼びます。
(  痺証についての解説はこちらからご覧いただけます  )

風・寒・湿の邪気と、瘀血(血行不良)が組み合わさって痛みます。

経絡でみれば、肺経、大腸経、小腸経が特に痛みが出やすいです。
広範囲で痛むことが多いので、「この動作の時はそこが痛むが、こっちの動作の時はここが痛む」というように、ピンポイントの痛みではないことが多いです。

漢方薬を出す場合は、痛みの症状に加え、内臓、全身の症状がどうであるか?を総合的に判断して処方を決めます

鍼灸の場合は、関節痛に関して言えば、「どの部位が、どの動き、どの角度で、どのような痛みがあるか?」で判断し、その「経筋」に対して適切な鍼をすると、比較的早く痛みは減少していきます。
五十肩の場合は「寒」と「瘀血」が多いと考えるので、「温めて動かす」ように処置していくと、治りが早いでしょう。

 

〜往診先での治療例〜

五十肩で多いのが「痛いので腕を動かさないように暮らす」人です。
そうすると、関節周囲の筋肉、靭帯は固まっていきますので、本当に固まって動かなくなってしまいます。

五十肩のことを、英語では「フローズンショルダー」とも呼ぶようで、まさに氷のように冷えて固まってしまうのです。

その状態になっても、改善はするのですが・・・やはり、そうなる前に治るのが一番ですね。

往診の例に話を戻しますと、やはり腕を上げてもらうと90度(地面と水平)にまで挙がりません。痛みのない側も、やはりあまりよく挙がりません。

これは、そもそも肩関節が固まって動けなくなった状態でしょう。

まずは、何もせずに動作をチェックし、どうすればどこが痛むのか?を確認していきます。
次に、こちらがサポートを入れながら、動作を誘導していきます。

そうすると、ある特定のサポートで痛みが出ないことがわかります。
あとは、それを保ったまま肩から腕、背中までの動きを作って(運動連鎖)いきます

元々の関節可動域の範囲で、ほぼ痛みがなく腕の上げ下げが可能になりました。

そうして、サポートをやめて、自律運動をしてもらいますと、若干の痛みはあるけれど自分で腕が動かせます。
特に「補聴器をつける動作で、全く痛みが無くなった」ということです。

これで治療は終わりです。
最後に、家でできる運動療法、リハビリを3つ教えて終了です。

ご家族にも喜んで頂けたので、初診の往診としてはまずまず!と胸を撫で下ろして帰りました。

 

〜その後の経過報告〜

往診翌日、ご家族からいただいたメールには、
「朝は腕を伸ばすと痛むけれど、見た目には先日までの異常は無いです。母は後ろに手を回して補聴器を着脱することが、普通にできるようになり、ようやく希望が持てるようになりました。」
とありました。

それから1週間後
「母はその後、風呂で背中を洗えるようになり、今日は洗濯物を干す際の痛みが大幅に軽減され、大層喜んでいます」
とご報告いただきました。

嬉しいですね。

そうして、病院の検査で異常がなくても、医師に治らないと言われても、そこで諦める必要はないということです。

身体には、人知でも最先端科学でも測りきれない可能性、治癒力、回復力があるものです。
それをいかに引き出していけるか?が重要だと思います。

 

そうそう、最初の思い出話にでてきた「腰が痛い90代女性」ですが、もちろんほぼ痛みなく動けるレベルにまで回復させました。
あれはとても良い経験値になりました。

目黒区自由が丘 漢方鍼灸和氣香風
鍼灸師 山本浩士