ぎっくり腰の治療例


鍼灸院に来られる方で、「腰痛」を訴える方は少なくありません。

腰痛には、慢性的な腰痛と、ぎっくり腰のような急性の腰痛があります。

こうした「痛み」「しびれ」などは、漢方医学では「痺証(ひしょう)」に分類されます。

痺証とは「詰まって流れず痛む」という意味で、様々な痛み、神経痛が当てはまります。

さらに麻痺が起こると「痿証」、ふるえると「痙証」というように分類されます。
なんにせよ「気血の巡りが阻害(不通)されて起こっている」と考えて良いと思います。

https://kakikofu.com/knowledge/clinical/異常歩行の改善例/

筋筋膜性腰痛、ぎっくり腰、頚椎症、肩関節周囲炎(五十肩)、椎間板ヘルニア、腱鞘炎、捻挫、骨髄炎、関節リウマチ、痛風、坐骨神経痛、三叉神経痛、各種神経痛、筋肉痛、変形性膝関節症、変形性股関節症、各種の関節炎・・・
これらは痺証のひとつとして考えて処置が可能です。

~痺証について~

古典によると、痺証は「風」「寒」「湿」という3つの環境要因によって起こると述べられています。

風(風痺):急な痛み、疼痛が起こり、その痛みや痺れには遊走性がある。

寒(寒痺):冷えにより気血の巡りが悪くなり(瘀血)、固定性の刺痛を起こし、温めると寛解する傾向がある。

湿(湿痺):関節に重だるさ、固定性の痛みがあり、関節に水が溜まることもある。

これら3つの外的要素をベースに、あらわれる症状によって現在では更に多くの区分がなされています。

行痺(風の痺証):主に風と寒によって起こり、痛みの部位が風のように移動することが特徴。

痛痺(寒の痺証):主に寒によって起こり、固定性の強く刺すような痛みが特徴的で、冷えると悪化し、温めると楽になることが多い。

着痺(湿の痺証):主に湿によって起こり、関節が腫れ、重く痛み、なかなか治らず長期化する特徴があり、慢性的なシビレを引き起こしやすい。
熱痺(熱の痺証):寒湿が抜けず、痺証が慢性化することで熱を発し、関節が赤く腫れ、疼き、全身的に発熱や喉の渇きを訴えることが多い。

骨痺(頑痺とも):痺証が長期化することで、骨、関節に拘縮や変形があらわれた状態。

その他

実際には、風寒に湿が混じったり、さらに熱が生じたりと複雑化していきますので、その時の病状、病勢を弁証して対応することが大切かと思います。

例えば、ぎっくり腰ひとつとっても、人それぞれに微妙な違いがみられることは少なくありません。

ですので、十人十色の治療、加減が必要になります。

何度も繰り替えす腰痛や関節痛などには、鍼灸と漢方薬を併用すると良い効果が期待出来ると考えられます。

たとえレントゲンやMRIで異常がなくても、血液検査で異常がなくても、医師に原因不明だと診断されても、痛みがあるならそれは痺証なので、積極的な対処法があります。 

~接触鍼法におけるぎっくり腰の治療例~

接触鍼を使い、痛みのある部位と関連のある経脈を刺激する「子午鍼法」と「奇経鍼法」の施術例をひとつ。

友人の結婚式へ行った時の話です。

受付をしていた30代女性。
式典が始まるため移動しようとしたところ、腰が痛くてイスから立てなくなりました。
私は、たまたまその場に遭遇したので対応処置。

当時はまだ寒い時期で、受付の場所も底冷えしていました。

そのため「冷たい風(風寒の邪)」により四肢が冷え、急性腰痛が発症したのだと考えました。

手足を触ると、冷たくなっていました。

表面の気血を巡らせて「風」を散らし、血流を促進させて運動機能を回復させることにしました。

全く動けないため、イスに座らせたまま施術。

まずは腰には触れず、持っていた接触鍼(刺さない鍼)を手首のツボに接触。
そのままゆっくり深呼吸を5回ほどしてもらい、鍼をツボから離しゆっくり立つよう指示。


 
痛みはまだ残るも、ゆっくり立てるように。
今度は立ったまま、手首と足首のツボに鍼を接触させながら動くように指示。

恐る恐るながら歩けるように。
最後に、ふくらはぎ、膝裏のツボに施術をして終了しました。

施術の時間は10分ほど。
この方は、そのまま式典、披露宴にも参加されましたが、痛いながらも悪化することはなさそうでした。

~経筋論を応用したぎっくり腰の治療例~

鍼灸には、全ての筋肉や関節がそれぞれ繋りあい、全身が連結しながら動いているという「経筋論」があります。

次は、それを応用した話です。

中年男性。
明け方、起きようとしたら腰が痛くて起きることもままならず。
和氣香風まで徒歩圏内ですが、まともに歩けずタクシーにて来院されました。

話を聞くと、前日にスポーツジムで強い負荷をかけてスクワットをし、その夜に急に腰が痛くなって動けなくなったそうです。

この方は、慢性的な腰痛や肩こり、首の痛みを持っていました。

こういう慢性的な痛みは「着痺」に多く見られ、血流の悪さ(瘀血)が影響しています。
血流が悪いと、筋肉は栄養されず冷えて硬くなってくると考えます。そうすると、動きが悪くなります。

例えば腰を動かす時、実際には腰(腰椎)だけが動くわけではありません。

胸、股関節、膝など全身がつながり連結して動くことで、大きくスムーズな動きを生み出しています。

この「動きの繋がり(運動連鎖とも)」が制限されることで、腰なら腰にだけ負荷がかかり、その結果痛みや怪我を生じやすくなります。

この方の腰を切診(触って調べる)すると腫れや熱はありません。

ということは、基本的に「冷え」ています。

こういう場合は、瘀血を取り去るようにすると結果が良いように思います。

そのために、動きの悪い筋肉を目覚めさせ、動きの連動性を作っていくことで、傷害された筋肉への負担を減らし、自分で動ける体を取り戻すようにしていきます。

ベッドに寝ることも難しそうなため、イスに座ったまま施術。
動作の確認をし、イスに座ったままだと後ろに反るのがキツいとのこと。
とりあえず膝に触れ、そこから股関節、腰椎へと動きが連結するように施術を開始。

1分ほど施術をして、動作を再確認すると最初より動けるように。
そのまま、足の角度を変えながら施術を数回。
痛いながらも、立って座って歩いて・・・という動作は出来るように。

ただ、イスに座ったまま靴下をはく動作がツラいとのことで、その動作がしやすいように筋肉の繋がりを強化。

自分でズボンもはける(痛みは残るも)ようになったので、最後に腰椎に軽く鍼をして終了。

家に帰ったあとの注意点を説明し、痛みのぶり返しもあるため翌日再来院するよう伝えました。

自分の足で歩いて帰られました。

施術の時間は20分ほど。

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翌日は、タクシーではなく元気に歩いて来院。

前日の鍼療のあと、悪化することはなく寝起きに痛むこともなかったとのこと。

動作をチェックしても、ほぼ日常動作はできている感じでした。

ただ、後ろに反ることと、靴下をはく動作はまだ痛むとのことで、そこへの施術を開始。

やることは前日とほぼ同じで、筋肉の繋がり(経筋)を回復させていきます。

軽くジャンプや駆け足が出来るぐらいに戻ったので、ここで終了。

施術時間は10分ほど。

もし痛みが再発したら連絡するように伝えました。

その後、特に悪化することもなかったようで(ちょっと痛みが出た日もあったようですが)、ひとまずこれで終わりです。

腰にもたくさんの筋肉がありますが、多くの人は一部の筋肉のみを多用し、そのほかの筋肉を上手に使えていない傾向があります。

今回は、そういった普段はうまく動かせていない筋肉を、繋げて動かしたことで、痛みが改善した例です。

古典にある経筋論では、足の指先から手の指先まで、様々な筋肉の繋がりが論じられており、それをうまく応用すれば多くの「痺証」は改善しやすくなります。

こうした全身のつながり、動きの連動性(運動連鎖)を取り戻してあげれば、痛みや痺れに悩む多くの方の助けになるかと思います。

症状の軽い方は、当日にはほぼ問題なくなりますが、7割ほどの方は3日続ければ軽い運動ができるまでには回復します。

治りの悪い場合は、漢方薬の併用をおすすめしています。

こういう痛みに対しても、鍼灸と漢方薬の併用は、相乗効果でより良い効果が出ているように感じます。

痛みや痺れに良い漢方薬はたくさんありますが、例えば↓

打身捻挫の鍼灸と漢方

最近では、三叉神経痛に対して、漢方と鍼灸の併用でかなり良い効果があったので、いずれその話も書きたいと思います。

和氣香風

鍼灸師 山本浩士