首のトラブルといえば、寝違え、ムチウチ、頚椎ヘルニアなどが多かったのですが、近年ではストレートネック、いわゆる「スマホ首」の相談が増えています。
今の時代ならではかもしれませんね。
長時間、パソコン作業やスマホチェックなどをすることで、首が前傾し、かつあまり首や背中を動かさないことによる血行不良、筋組織の硬直などがおこります。
そこから、首の痛み、慢性的な首肩のこり、頭痛、耳鳴り、眼精疲労、めまい、吐き気、手の痺れ、あるいは高血圧など様々な問題へと発展しやすくなります。
大事なことは、まず「自分でこまめに全身を動かし、ストレッチをし、血流を促進させる」ことが重要になります。
ひとつの生活習慣病みたいなものなので、自分の体を自分で整える!という気持ちが大事になります。
ただ、いきなりそれも難しいので、まずは私たちのような治療家を頼ってもらえればと思います。
和氣香風での臨床例
病院でストレートネックと診断された方。
動作を確認すると、上を向くと首の後ろが痛く、左右に倒すと肩に痛みが出るとのこと。
下を向くぶんには、痛みも何もないと。
一見しただけでも、頚椎が前傾し、頭の位置が悪いことがわかります。
同時に、首と肩の筋肉の過緊張、肩甲骨の動きの悪さも確認できました。
まず、1番の訴えである「上を向いた時に首が痛い」ことをどうにかしましょう。
両手で頭部を押さえ、頸椎へ微弱な圧力がかかる方向に動かします。
この時には、相手はあまり何も感じないかもしれませんが、術者の手には圧が伝わっています。
上を向いて痛むのだから、まずは下方に修正をかけるべく、頭が下を向くような方向に誘導します。
この時も、相手は何をされているかはあまりわからないと思います。
なんとなく、ふわふわ、ゆらゆらと首や頭が動く感じはするかも知れません。
鍼灸の基本は、陰陽虚実のバランスを整えることにあります。
上の痛みは下で取り、後ろの痛みは前で取り、右の痛みは左で取る、そういう考え方です。
なので、上を向くと痛むのだから、まずは下に向かわせるということです。
そうすると、体の自然な反応として「上に向こう」という力が反射的に生じます。
その力が欲しいのですね。
武術で相手を投げる場合もそうなのですが、前方に投げたい時には、まず軽く後ろの方に押し込みますと、相手は反発して押し返してきます。
その力をもらって、当初の予定通り前に投げ飛ばすわけです。
前に投げたいからといって、いきなり相手を引っ張ると、相手はそれに対抗してふんばります。こうするともう腕力勝負になってしまうので、力で引きずり倒すしかありません。
こうなると、もう技術とは呼べません。だから、反対のことをするんですね。
押したければまず引け、引きたければまず押せ。そういうことです。
実際には、こんなに単純ではありませんが、原理としてはこういうことです。
和氣香風の治療は「医武道」です。
「医武同源」「医武同術」の原理原則ですが、これは陰陽理論と同じことです。
頭と頚椎は繋がっていますから、頭部が動けば頸椎も動きます。
その繋がりを感じながら、静かに、わずかに頭部を動かすこと1分。
一度、動作をチェックしてもらうと、最初よりかなり痛みがないとのこと。
代わりに、首の横、肩のこりが気になると。
こういうことは、とうぜん起こります。
次に、手首と肘を操作します。
腕というのは肩、背中、背骨と繋がっています。
ですから、指先を動かすだけでも、背中まではダイレクトに力を伝えることができます。
背中まで伝われば、背中や肩と首は繋がっているので、関節的に頚椎の操作も可能になります。
武術の関節技もそうですが、手首の関節技をかけると、肩や腰まで効いてきます。
これと同じ道理です。
鍼灸理論で言えば「経筋理論」です。
全ての筋肉、靭帯、筋膜、組織は繋がっているという理論です。
手首の操作を数回。
もう一度首を動かしてもらうと、上を向いた時の痛みはほとんどありません。
あとは、背骨と背中を触診しながら、必要な部位に鍼を浅く打ち込み、お灸をして陽気を高めておきます。
それから最後の微調整をして終了。
だいたい20分くらいでしょうか。
ただ、スマホ首なんかは日常生活が大きく影響しますので、仕事の合間のストレッチ、頚部を冷やさない工夫、そういう養生法を指導します。
頚椎のセルフケアに良い気功もあるんですよね。
そういうものは、一気に教えても覚えられないので、まずは一つずつですね。
今回の例は、変化が早く出ましたが、なかなか上手くいかない時もあります。
とはいえ、必ずなんらかの変化は出ますので、あとは私の腕前を磨くしかないな・・・と常に猛省です。
自分でする養生法と、和氣香風での施術の相乗効果をねらっていきます。