和氣香風の鍼灸担当の山本浩士です。
今日は、妻の持病でもある「特発性拡張型心筋症」について少し書いてみます。長文になるので、興味のある人に読んでいただければと思います。
目次
序
今までは妻の意向もあり、彼女の病について敢えて公表してきませんでしたが、今回の件をきっかけに、みなさまにはキチンとお伝えする必要性を感じ、先日告知させていただきました。
和氣香風より重要なお知らせ
それとともに、この病気についても知っていただければと考え至るようになりました。
世界には、まだまだ原因のわからない難病に苦しむ方はたくさんおられます。
拡張型心筋症もそのひとつ。
この
「特発性拡張型心筋症」
とはどのような病気なのでしょうか。
特発性拡張型心筋症は、日本で18000人以上の罹患者がいるとされています。
日本国によって難病に指定されており、特異的な治療法がまだ確立していない病気のひとつです。
(難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/3985 )
主に、左心室の拡張、心臓の収縮力の低下が特徴に挙げられます。
現代医学では、特異的な治療法はまだないとされていますが、β遮断薬(心臓を休ませる薬)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(心臓を保護する薬)などの服薬から始まります。
それ以外に、浮腫をおさえるための利尿剤や、心臓の収縮力を高める強心薬も必要に応じて投与されていきます。
妻も、毎日多くの薬を服用していますが、かなり効いているんだなと妻を見ていて感じます。薬も日々進歩していますから、いずれはもっと効果的な薬も開発されるかも知れません。 特に、私たちはiPS細胞などの再生医療には大きな期待を寄せています。
薬物治療のみでは改善が難しい場合は、非薬物治療、つまりペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)などの手術、そうしてそれでも奏功しなければ心臓移植および植込み型補助人工心臓を検討していきます。
今回妻は、この手順通りに進み、最終の心臓移植に向けての第一歩を踏み出すことを決意しました。
特発性拡張型心筋症と言うのは、このような病気なのです。
心筋症
まず「特発性」とは、「理由や原因はわからないが発症する」といった意味があり、端的に「原因不明」という言葉の代わりに用いられます。
ただ、原因が無いわけではなく、現在の科学や医学ではわからないという意味ですから、未来では原因がわかっている可能性もあります。
心臓とは、大きく強い筋肉「心筋」で出来ていますが、その心筋自体に異常を生じ、心臓本来の働きができなくなる疾患を「心筋症」と言います。
つまり、特発性拡張型心筋症とは、発症した原因はまだわからないが、心筋そのものがなんらかの理由で異常拡張し、正常な心臓の機能を果たすことが困難な状態に陥った病気です。
心臓は「右心房」「右心室」「左心房」左心室」の4つの部屋に分かれています。特に「左心室」が拡張するのが、この拡張型心筋症の特徴です。
心臓は、血液を全身に行き渡らせるためのポンプ機能を担っています。
肺から届いた新鮮な酸素を大量に含んだ「動脈血」は、左心室の強いポンプ作用(収縮)によって全身に送り出されます。
この病気の場合、このポンプ機能が低下するために、全身に血液を送り出すことが困難になります。
これを「左心不全」といいます。
実際、妻の心臓は3割以下しか機能していないと言われました。
妻の主治医いわく「伸び切ったパンツのゴムのようなもの」という事です。
心筋が収縮しないため、命を守るための代償作用として心臓が大きく肥大します。これが「拡張型」という所以です。
結婚した当初、妻の心臓のレントゲン画像を確認しましたが、その大きさに驚いたことを今も覚えています。
その写真を見てから、鍼と気功施術を数ヶ月続けたのち、病院の検査では明らかに心臓が小さく縮小しているのがわかり、人間の体の可能性を感じさせられました。
ただ、それはそれで良い臨床経験にはなりましたが、それでも異常な大きさであることには変わりがありませんでした。
目に見えない症状
この病気も、いわゆる「心不全」ですから、症状としては、息切れ、呼吸困難、倦怠感、動悸、浮腫、不整脈などが複合的に現れます。
さらには、血栓を生じたり、腎不全などを合併するなど、全身に様々な悪影響を及ぼす可能性が生まれます。
心臓が機能せず、血液循環が悪いということは「瘀血」を生じさせます。この瘀血が血栓を生み出すと漢方医学では考えます。
妻と初めて出会った頃、私はあまり妻の病気について知らなかったので、何も考えずに山や階段の多い場所などへ連れて行きました。
普通なら、それほど大変でも無い階段でも、ゆっくり休みながら登り、息切れも激しかったので
「随分と体力が無いな」と思ってしまいました。今思えば酷い話で、医療人失格ですね。
自由が丘の駅から、和氣香風までの道のりは、私にとっては「平坦な道」だと思っていましたが、妻には「坂道」なのです。
確かに言われれば僅かな傾斜を感じますが、これを坂道と認識するほど心肺機能が低下しているのだと驚愕しました。
これは、心不全の人なら共感できることのようです。
今では、私の感覚も鋭くなり、「あぁここは登っているな、ここは下っているな」と感じられるようになり、妻に確認するとその通りだと言われるようになりました。
心不全の人にとっては、坂道、階段は命懸けなんだな、と今では認識しています。
医術でできること
こうした病気は見た目からはわからないものなので、普通の人には理解され難いものなのです。
例えば、ヘルプマークをつけて電車に乗っても、無視されることもあります。
それ自体は致し方のないことで構わないのですが、ただ、もう少しヘルプマークへの一般認識が深まってくれると良いなとも感じます。
そういう気持ちもあって、この機会に、特発性拡張型心筋症の話と、それに伴う漢方医学での考え方についても書いていきます。
世界には、まだまだ未知の病気、病名さえない病気がたくさんあります。
こういう仕事をしていると、聞いたことのない病気の相談をされることも少なくありません。 特に、外国人の方は、日本ではまず見聞きしない症状を持っている方もいますので、それはそれで臨床力と弁証力を磨き上げる良い訓練にもなっています。
現代医学では対処法が無くても、漢方医学の視点(弁証論治)では対応策がある場合も少なくありません。
東洋医学は、いわゆる病名ではなく、全身に起きている症状、発している様々な情報、身体所見から、そのバランスを整えていくための処置を行いますので、病名があっても無くても関係ないのです。
また逆に、漢方医学よりも現代医学が効果が高いこともあります。
例えば明確に病名がわかっており、その治療法が確立されているのなら、それを行う方が良いこともあります。あるいは、救急の場合は現代医学の出番です。
私が学生時代、神戸大学医学部の教授が病理学の授業をしてくれていました。
その先生が「あなたたちが全部やろうとする必要はない。医者で治せることは医者に任せればよろしい。医者にできないことはたくさんあるから、その時こそあなたたちの出番ですよ。がんばりなさい」とよく仰られました。
学生時代は、このことを特に気にもしていませんでしたが、今になってその言葉の意味、重みを痛感します。
実際、妻は現代医学の恩恵と、漢方医学の恩恵の両方があったからこそ、今まで無事に生きながらえて来られたのだと実感しています。
医学は万能ではありませんから、より良い医療のために東西の智慧が合わさっていく未来が出来れば良いなと考えています。
脈のコントロール
話を、拡張型心筋症に戻します。
結婚後、妻の脈をとると、ありえないぐらい酷い「結脈(いわゆる不整脈)」を触知していました。
脈、呼吸、心拍、浮腫・・・明らかに異常な状態を触知し、頭を悩ませる日々でした。
血圧は低いので「沈脈」です。これは病が陰位にあることを示唆しています。さらに、細い糸のような脈「細脈」もあり、これは気血両虚を示します。 そこに結脈も加わるので、なかなか大変だなと感じていました。
この症状が悪化すると、さらに重い不整脈、さらには心房細動の危険性がでてきます。そのため、これを防ぐためにペースメーカーや、植込式除細動器を体に埋め込みます。
結婚してから、頻繁に鍼治療をしてきましたが、この不整脈を抑えることはできませんでした。
そうして2019年、妻の心不全は過労から一気に悪化し、東大病院に緊急入院。 その時は、この除細動器付きのペースメーカー(ICD)を植え込んで退院しました。
それ以後、あの異常な不整脈は触知していません。機械のコントロール力の凄さを感じます。
BNP
心不全を見極めるものに、BNPという血液数値があります。
これは「Brain Natriuretic Peptide」の略で、日本語では「脳性ナトリウム利尿ペプチド」といいます。
これは、心臓内で合成されるアミノ酸から生成されるホルモンのことで、血管を拡張させ、利尿効果を高めるホルモンです。
つまり、心臓が肥大、機能が低下して全身や肺に血液が溜まった時に、それを排出させ、心臓へのストレスを減少させるために合成されるホルモンです。
BNP値が高いほど、心臓がちゃんと動いていませんよ、負担がかかっていますよ、血液循環が著しく低下していますよというサインであり、心不全を調べる上での大きな指標となります。
健常者は、0~18という値です。
~40は、心不全とはいえないが、経過観察しましょうというレベルです。
~100は、軽度の心不全の可能性があるので、要経過観察というレベルになります。 100~200は、ほぼ心不全なので治療しましょうかというレベルです。
200を超えると心不全と言われます。
確か、何年か前に、上皇后の美智子様が息切れを起こし、このBNPが高値だったというニュースが流れました。
結婚した当初から、妻のBNPはかなり高く(1000以上)、2018年からさらに増加。 2019年の春には3800にまで上昇したため、緊急で東大病院へ入院しました。
妻は、見た目が元気で明るいので、一見すると健常者にしか見えませんが、重度の心不全状態なのです。
ただBNPは、肥満や腎臓が悪くなっても上昇するので、全てが心不全とはいえません。
血液を送り出す心臓と、腎臓が血液の濃度や圧力をチェックして不要なものを尿として排出。これらをつなぐのが血管です。
このように、心臓と腎臓は関連があります。
その一つを「レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系」といいます。
心不全から腎不全に、あるいは腎不全から心不全へと移行する例は少なくありません。ですから、心不全の場合は、腎不全を合併することを注意しなければなりません。
また、心不全による血流障害は「肝臓」にも大きな影響を与えます。その一つは「うっ血性肝障害」です。
心不全の影響で、下半身から心臓へ戻る「下大静脈」にうっ血が生じます。その影響で、静脈圧が高まり、肝臓に血が溜まることがあるのです。
肝心要
漢方医学では「心は火」「腎は水」。
この火と水、陽と陰が正しく交流していれば健康で、これが交わらなければ病気になると考えます。それを「心腎不交」といいます。
ですから、心臓病を治すにはまず腎気を補うことが重要になります。
昭和のお灸名人と称された澤田健は、心臓病は丹田に気を落とせば片がつくと伝えました。これは、私の師匠からも教わったことです。
また、心不全、心筋梗塞、狭心症などの患者さんの「肩」「背中」はとても硬いことが多く、そこを丁寧に鍼で緩めていくことも、心臓病にはとても有効です。
心不全による血流障害が、肺に波及して肺うっ血を生じることもあります。呼吸困難や、咳や痰が出るようになります。
これは「うっ血性心不全」に見られる特徴です。
うっ血性心不全というのは病名ではなく病態、心臓のポンプ機能の状態を表しており、「心不全」と同じ意味合いになります。
特発性拡張型心筋症は基礎疾患ですから病名です。
そうして、特発性拡張型心筋症は「うっ血型」と言われます。ですから、肝臓や肺がうっ血するリスクを持っています。
こう考えていくと、心不全だからといって「心臓」のみを考えるのではなく、他の臓器にどう影響を与えているか?などを丁寧に観察し、全体的な施術をする必要があります。
私の場合、まず下腹部に気を誘導して補い、鍼で腰と肩と肩甲間部に鍼を打って硬直した筋肉に刺激を与えます。
これだけでも、脈が落ち着き、呼吸が安定し、妻は体が楽になると言っていました。
さらに、「肝」「腎」にも刺激をいれていきます。
鍼を使うこともありますが、お腹の按摩(按腹といいます)を行って、強制的にうっ血した血液を循環させていく処置を行います。
これは妻に行った処置だけではなく、そのほかの循環医障害の患者さんにも大体このような手順で鍼療を行います。
あとは、脈や腹、触診で得た情報に従っていくのです。
鍼を使わない場合でも、常に気の流れを調え、血液の流れを循環させ、心臓への負担を減らすように施術をします。
昇降、利水、収斂、安神、このような技術を使いながら、最後にからなず丹田に集気をします。これを収神といいます。
五行論では、心(火)の母は肝(木)であり、心と腎(水)は拮抗関係にあります。
心不全は「心(火)」が弱っているので、その母である「肝(木)」にも刺激を与えます。
そうして、心臓に負荷がかかっている状態は、ある種のオーバーヒート気味とも言えますので、「腎
(水)」を調整して火の勢いをおさめて心を休める、というような施術を行っても良いでしょう。
心筋は「筋」であり、筋を支配するのは「肝」であると昔から伝えられています。また、水の運航を支配するのは「腎」です。
今では「重要である」という事を「肝心」と書きますが、昔は「肝腎」と書きました。肝心・肝腎要です。
これらから考えても、心臓病の基本的な治療は「肝心腎」が重要なのだとわかります。
これは、臓腑で考えても経絡で考えても、どちらでも構わないと思います。漢方や薬膳の人は臓腑で考え、鍼灸師や指圧師は経絡で良いかと思います。
手探りではありましたが、少しでも妻の体が楽になり、心臓の負担が減り、数値がもっと良いように改善してもらうことを祈りながら鍼を打ってきました。
もし、これを読んでいる方で、同じ病気や同じような病気に悩んでいる方がいれば、病院での治療に加えて、近くの鍼灸専門院へ体のケアに行ってもらえれば嬉しく思います。
また、鍼灸師の人が読んでいたのなら、ぜひ心不全の相談も積極的に受けて、その方々の力になってあげて欲しいと願っています。
気功の威力
2019年の入院中。
薬の投与により、心臓の状態は改善していきましたが、以前としてBNP1000以上という状態でした。
医師からは、これがもう少し下がらなければ、もう心臓移植をするしか方法はないよと言われました。
妻の希望は、できる限り自分の心臓で頑張りたい!機械も入れたくない!でした。そこで、私は先輩の気功師に往診を依頼。
彼は見舞いがてら15分ほど気功施術をしてくれました。
その数日後の検査で、あれだけ下がらなかった心臓の数値が、一気に改善していたのです。
これには私もかなり驚き、この時にようやく「気功の威力はすごい!」と確信することができました。
私が真面目に気功を訓練し、自らの療術に組み込んでいくキッカケとなった出来事でした。
これには当然、医師も予想外だったようで驚いていました。
しかし、数値がちゃんと下がったため、妻の希望が通る形で退院することが出来たのです。
ただ、医師としても、何もせずに退院させることはできないので、せめて除細動器付きのペースメーカーはつけさせて欲しいと頼まれ、その条件だけは飲むことにして手術を行って退院をしました。
精神力と病
その後、通院しながら仕事を再開させました。 BNPの数値も1000以下で安定し、調子の良い時で500ほどになっていました。
ただ、妻の師匠(中国人中医師)にも「あなたの精神力だけで生きている」と言われるほど、体そのものは決して良い状態ではありませんでした。
実際、数値が良いといってもBNP500以上ですから、私がその数値なら立って歩くことも困難だと思います。
妻はもう耐性ができているのか、そんな状態でも、強い精神力と「なにくそ!」という意識によって、元気に国内外を旅行し、大好きな漢方相談を思う存分実施することができました。
重病人とはまるで思えず、人間の力の可能性を感じさせられました。
このことは、また別のコラムで書くように準備をしていますが、「病は気から」といいますが、気は精神力、意念で左右されます。
今、何か病気などで悩みや不安がある人がいれば、とにかく「私はこうありたい!こんなことをするんだ!!だから大丈夫!!」と強く心で思い続けてください。
その精神力は、眠っている潜在能力を高めてくれます。
今回、妻は手術をすることを決意し、その先に待っている心臓移植と、免疫抑制剤による副作用を受け入れました。
それにより、緊張の糸が緩んだのでしょうか、外を歩く時、今まで以上に苦しそうにしています。
ゆっくり休みながら歩いていますが、それでも苦しそうです。
猛暑の影響か、湿度の影響か、気圧の影響か・・・色々考える中で、精神力の緊張が切れたからだと気が付きました。
このことは科学的な根拠はありませんが、漢方医学的な根拠はあります。人に重要なのは、精気神と神意気力ですから。
病は気からと言います。これはただの精神論、根性論という枠を超越して、人の持てる潜在能力、生命力の活性化に必要なのではないでしょうか。
緊張の糸が切れた途端に、病気になったり、死ぬ人もいます。きっとそういうものなのでしょう。
妻の決意
この6年は、ギリギリの綱渡り状態でありながらも、医師も驚くほど安定していました。
もしかしたら、このまま手術もせず、自分の心臓でずっと生きていけるのではないか?と、私たちはもちろん医師もそのような希望を抱いていました。
BNPは500ー800ぐらいで安定していました。
とはいえ、異常な高直なのは間違いないのですが、きっと妻の体はこの状況に適応していたのでしょう。
きっとその背景には、強い精神力があったのだと今なら言えます。
ただ、2024年末頃からまたBNPの数値が急に悪化。
2025年1月は1000を超えてしまい、今まで見守ってくれていた主治医にも「そろそろ限界かもね」と言われ、本人の体感からもその意味を噛み締めていました。
精神力だけで補える状況をとっくに終えていたのかも知れません。
今後も、自分の好きな漢方相談の仕事を続け、さらには取材や企業とのコラボといった大きな仕事を、体調不良のために断るようなことはしたくない!!という強い意志から、今回の手術を受けることを決意しました。
和氣香風は、妻の想いと、その想いを受けて私との二人三脚で始めました。本当にいろんなことがありました。
ここには書いていない症状、合併症などもありましたが、ここまでやってこれたのは、家族や友人、そうして和氣香風を気に入って下さった皆様の支えがあってこそです。
妻がいなければ、和氣香風はありません。
どの道を選択しても、きっと後悔は無くならないでしょう。手術をしなければ「あの時に手術すればよかった」と思い、手術をすれば「本当は手術をしなくても元気に暮らせたのではない か?」と思うはずです。私たちは未熟ですから、そんなものです。
しかし、同時に、何を選択しようが、未来は開けている!とも確信しています。どの選択をしても、全てが必要、必然、最適解です。
ですから、妻の未来への想い、夢、それを支えるために、妻の決意を受け止めようと私も決めたのです。
LVAD
今回の手術は、ちゃんと収縮できていない左心室に、「LVAD」という人工のポンプを取り付けます。
心筋の収縮による血液の排出ができないため、ポンプがその代わりをして、血液循環(大循環)をさせます。
このポンプは、外付けのバッテリーによって駆動し、同じく外付けのコントローラーで管理されるため、今後はこれらの機器と共に生活しなければなりません。
コントローラーの管理、バッテリーの管理、様々な衛生管理などが不可欠となります。
また、海外へ行くことは不可能となり、基本的には東大病院から2時間圏外には出ないでくださいとお願いされています。
何かあった時の、緊急対応のためでしょう。
ですから、関西へ帰るのも簡単では無くなりました。
もちろん、私の仕事であったポーランドとイタリアでの講義もできないため、当分の間休止すると伝えました。
彼らも医療従事者であるので、すぐに事情を察してくれ、何か違う方法を計画すると言ってくれました。頼もしい弟子たちです。
この手術は、心臓移植をするための繋ぎの処置でもあります。
拡張型心筋症は、現代医学では薬か心臓移植しか処置方法がないとされています。
心臓移植を受けるためにも、このLVADを取り付ける必要があるため、今回このような仕儀となりました。
医師に確認すると、「正中開胸手術を行って、手術時間は半日(6時間~12時間)かな」と言われました。
かなり大変な手術です。
術後は、傷の回復およびリハビリを行いながら、LVADを駆動させるためのコントローラーやバッテリー交換、起こり得る機械の問題に対しての対処法などを覚え、日常生活を送れることを目指します。
コードが外れたり、バッテリー切れを起こしたりして、機械が停止してしまうと命の危機となります。
ですから、機器の操作はとても重要になります。
そのため、妻をサポートする「ケアギバー」と呼ばれる介助人が必要になります。その中心は夫である私ですが、それ以外にも家族や友人数名にお願いしています。
退院後は、どこへ行って何をするにしても夫婦一緒になります。機械のエラー音が聞こえる範囲にいなければならないからです。
薬日本堂の講義を再開したなら、妻の講義中には私も最後尾で聴講していることでしょう。その時は、事情を察していただければ幸いです。
体の可能性
こうした体験を続ける中、体というのは可能性しかないと確信するようになりました。それはホメオスタシス、恒常性などの機能から考えてもそうだといえます。
治るか治らないかはやってみなければわかりませんが、原因のない結果(病気)はありませんし、変化(改善)しないものもありません。
特発性であろうが、諦めるものではありませんし、指定難病であっても治らないとは決まっていません。
今までに、そのほかの難病などを含めて、多くの疾患に対して臨床経験を積んできました。
同じ病気に悩む方、またそれを支えるご家族。
あるいは、全く別の病気でも同じことが言えますが、諦めず、可能性をもってできることをやって
ください。
漢方や鍼灸が、思わぬ助け舟になることもあります。
どうか可能性を諦めず、自らの潜在能力、可能性を信じて高めてください。
妻の件も、家族ではありますが良い臨床経験になっています。
我々は、現代医学を素直に受け入れながらも、漢方医学(薬、鍼、灸、気功、膳)の力をフル活用していきます。
今までの経験からも、かなり有効だとわかっていますから、妻だけでなく、病に悩む多くの方の力になっていけるよう精進を続けます。
終わりに
特発性拡張型心筋症は、今の所特異的な治療法が見つかっていません。
心臓に負担をかけないように、様々な薬も開発され、妻もそれらを服用し、その効果を実感しています。
しかし、それらを飲めば大丈夫ということでもありません。
外科としては、今回のような人工補助心臓(LVAD)の植込み、そうして心臓移植というのが流れとなっています。
私は、数多くの患者さんの痛み、病に鍼灸で対応し、それなりの結果を出してきました。しかし、妻の心不全を改善させることはできませんでした。
今の私のレベルの低さを、私は痛感させられました。
だからこそ、もっと修行を積み、勉強を深め、これからの妻を支えるとともに、このような病気で苦しみ悩んでいる人たちに、小さな希望を与えられるようになろう、そう考えています。
過去にできなかったことが今はできるようになったので、今できないことは未来にできるようになる、そう信じています。
一本の鍼でできることは些細なものです。
しかし、一本の鍼が神経を動かし、様々な変化を体に起こすことも出来るのです。これは、最先端の研究からもわかってきています。
東西医学が手を組んでいく、そんな未来の医学を想像するととてもワクワクしてきます。
私は、妻と結婚して以来、iPS財団に僅かながら寄付を続けています。
再生医療が進歩し、拡張型心筋症にも効果が出ることを心から願っていますが、まだもう少し時
間がかかりそうですね。
より良い医療の未来のため、寄付は続けていきます。
数年後(5年か6年かはわかりませんが)、次は「心臓移植」が待っています。その時になれば、また報告をさせていただきます。
まずは、その前段階の「LVAD植込み手術」を無事に終え、元気に退院することが先ですね。
退院は10月ごろを目指していますが、実際どうなるかは手術をしてみなければわかりません。退院後も、即日仕事復帰というわけにはいかないでしょうが、できる限り早い復帰を目指していきます。
店の休みも増えるかも知れません。
本当に、いろんなご迷惑をおかけすることになりますが、こうした状況であることをご理解いただき、我々夫婦の活動を支えていただければ嬉しいです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
和氣香風 鍼灸師
山本浩士