セミと漢方

– 夏の風物詩 –

梅雨が明ける前、どこかでセミの鳴き声が聞こえました。
夏を感じる瞬間ですね。

「今年初のセミ!」
と思った翌日、東京も梅雨明けが発表されました。
セミも、ちゃんと梅雨が終わる頃をわかっているのでしょうね。

そんなセミですが、先日友人のフェイスブックを見てあることに気がつきました。
それは「セミの鳴き声が違う」ということ。

東京では、「ミーンミンミン」という鳴き声がよく聞こえます。
いわゆる「ミンミンゼミ」です。

実はこのミンミンゼミ、関西ではほぼ見かけた覚えがありません。
山間部へ行くと、いたように記憶はしていますが、それでも多くはないイメージです。

わたしの地元で多いのが、「ジージー」と鳴く「アブラゼミ」
それと、同じか、それ以上に多いのが、「シャーシャー」と鳴く「クマゼミ」です。

生まれも育ちも兵庫県のわたしですが、東京へ移住してそろそろ6年。
今更にして「クマゼミがいない!」と気がつきました。

– 東西で種類が違うセミ –

気になったので調べると、やはりセミの分布には東西で違いがあるようです。
西国では、やはりクマゼミが有力とのこと。

しかし、東京にも最近現れているそうで、友人(九州出身)が「東京に来て初めてクマゼミの声を聞いた」と書いていて、それでハッと気がつきました。
おかげで、なんとなーーく気になっていた違和感の原因がわかりました。

クマゼミって鳴き声がやかましいんですよね。
ミンミンゼミは静か目です。

さっそく、仕事の合間にセミ散策に出かけてみました。
アブラゼミがジージー鳴く間に、ミンミンゼミがしっかり鳴いています。

しかし、クマゼミの鳴き声も、姿も見かけることはできませんでした。

兵庫県と東京都、距離にして500キロ程度しか離れていませんが、やはり色々違うんですね。
そのことを、改めて感じさせられる夏となりました。

– 生薬になるセミの抜け殻 –

そんなセミですが、数年地中で過ごしたあと、地上へ出て脱皮し、数週間の命を燃やして力尽きていきます。

脱皮したセミの抜け殻は、至る所で見つかりますが、実はそれは「蝉殻・蝉退(せんたい・ぜんたい)」という生薬になるのです。

5年ほど前の夏。
漢方マニアの妻に「仕事帰りに、セミの抜け殻を集めて持って帰ってきて」と連絡があり、当時働いていた職場近くの公園で、たまたまそこにいた小学生たちと一緒に抜け殻を集めました。

それを持って帰ると、妻はおもむろに抜け殻の足を取り去り、胴体部分をハサミで切り始めました。

なんとなく嫌な予感がしたのですが・・・

ふと気がつくと、なんと笑顔で「のりたま」に混ぜてるやないですか!!!!!

いうまでもありませんが、それはその夜の晩御飯に出されました・・・

別に不味くもないですが、旨い物ではありませんよね。
なんか気分的にもテンションが下がりますし・・・

さて、そんな悪夢のような話は置いといて。
そもそも、生薬として使われる蝉殻は、中国に多い「スジアカクマゼミ」という種類です。これは、残念ながら日本にはほとんどいないそうです。

近年、北陸付近に侵入して生息し始めたとのことですが、日本の固有種ではないようです。

日本固有のクマゼミは、台湾の「タカサゴクマゼミ」の近親種ではないかと考えられているそうですが、やはり違うそうです。

國譚本草綱目を調べると、「蝉には種類が多いけれども、獨りこの一種のみを薬用とする。醫方に蝉殻(せんこく)を多く用いるが、やはりこの蝉の殻だ」とあります。

ここでいう「この蝉」は、中国の「スジアカクマゼミ」のことでしょう。しかし、日本では手に入りにくいこともあって、日本にいるクマゼミ、アブラゼミの抜け殻を代用してきたそうです。

– 蝉殻の効能効果 –

國譚本草綱目によると、

  • 修治 沸湯で洗って泥土、翅、足を去り、漿水で煮てから晒し乾して用ゐる
  • 気味 鹹く甘し、寒にして毒なし
  • 主治 小児の驚癇、産婦の子の下らぬもの。小児の壮熱驚癇。渇を止める。
    頭風眩運、皮膚の風熱、痘疹の痒きもの、破傷風、及び丁腫毒瘡、大人の失音

など、色々と記載があります。

「漢薬の臨床応用」を調べると、

  • 薬理作用 疏散風熱、利咽喉、退目翳、定驚癇
    解熱、鎮静
  • 臨床応用 小児科で用いることが多い。発熱、悪寒、皮膚のかゆみ、夜泣き、おねしょ。
    眼科では角膜の損傷、翼状片、目の充血、疼痛などに用いる。
    破傷風などの痙攣発作の鎮静に用いる。
  • 処方例 五虎追風湯、蝉退無比散など

漢方薬では、上記のように炎症を抑えるのによく使われるようですね。

これから夏本番。
蝉の鳴き声もいっそう賑やかになることでしょう。

当たり前に聞こえる蝉の鳴き声、そこら中で見つかる蝉の抜け殻。
今までとはちょっと違う目線で見てみるのも面白いかもしれませんね。

山本浩士