因果と理法

鍼灸担当の山本浩士です。

「新型コロナウイルスに漢方薬は効きますか?」
という質問を頂くことがあります。

「新型コロナウイルス」に効く漢方薬はおそらく無いです。
現代医学の薬でも、新型コロナウイルスに効くものは無いと思います。

《ウイルスと消毒》

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、エンベロープ(外膜)を持っています。
この膜は、リン脂質、タンパク質、糖タンパク質などで構築されていますので、それを破壊する薬剤が膜に触れると幕を破壊し、ウイルスを不活性化させます。

その薬剤は主に、

◇エタノール(80%以上)
◇次亜塩素酸ナトリウム
◇過酢酸
◇エチレンオキサイドガス
◇ホルムアルデヒド
◇ヨウ素系消毒剤

などです。
あとは、

◇オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)

オートクレーブ

◇煮沸消毒(98度以上、15分以上)

などの加熱でウイルスは滅菌されます。
危険な薬剤は人体に投与するわけにはいきませんし、熱湯なんて入ったら死んでしまいます。

また、外膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」には、アルコール薬剤は効かないとされています。

ノンエンベロープには、風邪の原因のひとつである「アデノウイルス」や、他には「ノロウイルス」「ポリオウイルス」などがあります。

傷寒と風邪とお灸

どちらにせよ、高濃度のアルコール消毒剤や、次亜塩素酸系の薬剤は、ドアやトイレ、家具、薄めて空間散布などには使って有効ですが、人体に害が出ることも多いので、買われる時にはよくよく調べて買ってください。

決して「値段」「名前」で決めないで下さいね😅

公衆衛生と空間除菌

そんな強いウイルスですから、人に投与する薬でどこまで効果が出せるか?は難しいところです。

特にウイルスは、細菌と違って細胞を破壊して中に入り込み、DNA情報を書き換えてしまいます。
そうして、常に変化をしていくのでワクチンでも対応が難しいわけです。

だから、風邪(かぜ症候群)に効果的な薬は無いのです。
もちろん、効く場合、効く人もいますが、それでもウイルスへの対処は難しいわけです。

インターネットの世界にも「ウイルス」がいますね。
外からいつに間にかやって来て、勝手にパソコンに入り込み、情報を書き換え、あるいは情報を盗んでいきます。
ウイルスガードのソフトを入れても、ウイルスは常に変化をするので、ガードソフトも常にアップデートをする必要があります。

人対ウイルスも同じで、ある意味もっと厄介かも知れません。

 

《漢方医学の治療観》

上記のことから、「新型コロナウイルス」に効く漢方薬は無いと思いますが、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」に対しては漢方薬でも対応出来る可能性が高いと言えます。

つまり、ウイルスそのものを滅菌することは出来なくても、【身体の機能を強化し、起きている症状を鎮め、身体の力(白血球)でウイルスを押さえ込む(獲得免疫)サポートは出来る】ということです。

オススメの本

人の身体には、そういう力がそもそもあるのです。
一番強い薬を、人の体は作り出せるのです。
生命力ですね。
漢方医学は、その力を蘇らせ、あるいは活性化、または鎮静化させながら、治癒へと導く医術だと言えます。

風邪をひいてもパッと治る身体を作ろう!

《弁病と弁証》

漢方には「弁病」と「弁証」があります。

病名のある病気に対して、決まった処方を投与する、これが「弁病」です。
例えば「風邪には葛根湯」「ゴホンと言えば龍角散」というものです。

これに対して「弁証」があります。

相手の気配、体格、姿勢、声色、呼吸、体臭、動作、顔色、皮膚の状態、舌の色や形や苔の状態、脈、お腹や背中の状態、食欲や睡眠の状況、排便や排尿の状況、生理や経血の状態、精神状態やストレスの有無などなど。

こういうことを、パッと目で見て(望診)、耳で聴いて(聞診)、質疑応答をしながら(問診)、手で触れ(切診)、五感の全てを使って相手の情報を可能な限り集め、分析し、判断して決定、ということを行います。

これを「四診」と言い、相手の「気の状態」「臓腑の状態」「経絡の状態」などを把握する技術です。

つまり、病名や病気という決まったものではなく、あくまでも目に前にいる「人の現状」を見極め、その人に必要な処方や治療法を決めます。
これが「弁証」です。

オンライン問診票

ラーメン屋さんへ行くと、卓上に胡椒や醤油、ラー油や酢などが置いてあり、みんな好みで使いますね。
つまり、店から出すラーメンは、お客さん一人一人合わせたものでは無いので、あとは個人の好みで工夫して食べてくださいね!という事です。

弁証は、個人個人に合わせるため方法で、中医や漢方や鍼灸では必須です。
だから「オーダーメイドな治療」と言われる所以です。

感染対策・予防に「板藍根」「白花蛇舌草」「玉屏風散」などを紹介してきました。
緊急事態ですから、とにかくすぐ対応策が欲しい人も多いです。

ですから「弁病」として、これらの服用はおすすめします。

食薬と漢方薬で感染症予防対策。「飲む除菌剤」と「飲むマスク」

ウイルス感染症と食薬

しかし、それぞれ作用により「合う、合わない」が出てきます。
ですから、本来は「弁証」が必要なのです。

弁証論治

《病機と病理》

病気にも「原因」と「結果」があります。
発熱という現状(結果)に対し、ウイルスという原因があります。

原因と結果の間には「過程」があります。
どうやってその結果に至ったのか?と言うことですね。

「理由」とも言えますが、西洋医学では「病理」と言います。
「理」とは、物事の道理、筋道、法則ということです。

病気には、病気になった理由、経緯、仕組みがあります。
それを紐解く学問が「病理」ですね。

私は学生時代に、某医大の病理学教授から病理学を学んでいました。
先生はいつも「細かいこと(用語など)は今覚えなくてよろしい。そんなことよりも「流れ」を理解しなさい。」と仰っていました。

そうして、
「医者で出来ることは医者にやらせればよろしい。医者では治せないもの、理解できないことは沢山あるのですから、そこはあんたらの出番でしょう。しっかりやんなさい。期待していますよ。」
とも仰られたことが、今も心に残っています。

さて。
漢方医学では、病理のことを「病機」と言います。
「機」とは「はたらき」という意味を持っています。

病機は、その症状になった「機序(仕組み・メカニズム)」ということです。

病気(果)には理があり機があります。
その奥には「因(原因)」があります。

これを「病因病機」と言い、漢方医学の基礎概念と言えます。

①病因病機
②弁証
③治法
④処方
⑤養生

この全てがワンセット!
これが、私の漢方薬の師・・・妻の教えです😁

漢⽅医学の⽬的

《状況に応じる》

先日、武漢の地でCOVID-19に対して中医薬で抑え込むことに貢献された「張伯礼」医師のオンライン講座に参加しました。

張先生のオンラインセミナー写真

http://www.chuui.co.jp/lecture/COVID-19_Live2020.pdf

http://j.people.com.cn/n3/2020/0408/c94638-9677377.html

とても素晴らしい講座でした。
その中で先生は、

「今回のように一気に広まり、たくさんの患者さんが出た場合、原因が「新型コロナウイルス」とわかってような場合は、一人一人弁証している余裕がないので「弁病」としての薬で対応することも大事だ。
しかし、一番大切なのは「弁証」だから、今の段階の日本ではまず弁証をしっかり行なって対応されると良いでしょう。
特に初期の場合では、中医薬、漢方薬は有効ですから、しっかり弁証しておけば良いでしょう。」

と仰られました。

また、日本では中国のような生薬が手に入らないことも多いとの質問に対し、

「中医には「法(法則)」があります。この法にさえ則っていれば、使う生薬や方剤が異なっても問題ありません。大事なのは弁証です。」
と、何度も弁証の重要性と、その有効性を説かれました。

西洋医学には西洋医学の「理法」と「技術」があります。
漢方も同じです。

これは鍼灸も同じです。
何事も「臨機応変」ですが、「理」「法」からは外れてはいけません。

https://kakikofu.com/knowledge/digression/出来ることはやってみる!/

妻と、何度もうなずきながら、「日本には漢方薬がある!鍼灸がある!!だからなんとかなる!!」と希望が持てました。

最前戦で戦われる医師、看護師の方々には頭が下がります。
漢方は漢方でのサポートが可能です。

張先生も、
「感染初期は特に漢方がよく効いた。しかし、重症化すると西洋医学との連携「中西結合」が重要である。」
と再三述べられました。

また、武漢での現場に関わった中医師たちは、5000人ほどおられるそうですが、一人も罹患者が出なかったそうです。
彼らは、主に疲労回復の漢方を飲んでいたそうです。

日本の現状として、現場の医師、看護師、その他のスタッフさん方に、元気の出る漢方薬を飲んで頂きたい!!!

そうして、一日も早く緊急事態宣言が解除されるように、私共などは微力ですが、出来る限りのことをさせて頂きたく思います。

そうして、一番大事なのは「日々の養生」つまり「予防」が大切です。
感染した場合でも、しっかり養生すれば回復も早いでしょう。

気功、足湯、お灸。
ぜひ実践しましょう!!