詰まりを取って流そう

『凡そ病の生ずる、風寒湿によればその気滞り、飲食によるも滞るなり。
七情によるも滞るなり。 皆元気の鬱滞するにより成るなり。』

江戸時代を代表する医師のひとり「後藤艮山」の言葉です。
これを「一気留滞説(論)」といい、気の滞りが全てに病気を生み出すと主張しました。

《鍼灸で滞を取る》

瘀は「滞留」の意味で「血の滞り」を指します。
漢方医学では「瘀血」「血瘀」とも言います。

気が滞ることで瘀血(血の滞)を生じ、それが筋肉の「シコリ」「硬結」を生み出します。

鍼は気と神経に働きかけ、灸は血に働きかけ、滞、瘀、結などを取り除くことに長け、長い年月をかけて研究されてきました。

滞を「積(しゃく)」「聚(じゅ)」とも言います。
集まるもの、という意味です。
先ほどの「瘀」は「積血なり」という説明もされ、血が滞れば瘀血となります。

例えば、積がさらに集まり、重なって固まり「腫」となれば、それは「腫瘍」です。

ガンは「癌」とも書きますが、石や岩のように硬いことからこの字が作られました。
「瘕(か)」あるいは「癥(ちょう)」とも言います。

癥は「しこり」の意味があり、「癥瘕」は主に「血が固まった」状態を指し、子宮のトラブルに使われます。

滞、留、積、聚、腫、瘀、癥、瘕、これらは「気血が滞った」ことによる現象と言えます。

鍼と灸は、こういう「滞」「瘀」を上手に解していきます。
症状のひどい場合は、「刺絡」や「吸玉」なども加えていきます。

私は以前、「鍼をして灸をして、吸玉をすればどんな病にも対応できる」そう学びました。

《滞を無くそう》

病の始まりは、気滞であり瘀血と考えます。
(実際にはその前に「虚」などが生じます)

気の留滞(気滞)は血の留滞(瘀・瘀血・血瘀)を生じさせ、血の留滞は血栓を生じ、様々な病気を引き起こします。

血の流れが悪くなれば、免疫を始めとする生理活動に悪影響を及ぼします。
アレルギー反応や、感染症、炎症なども起こりやすくなります。
これらも元は「滞」から生じたものです。

経済活動でも社会活動でも、人間関係でも思考でも、「滞」はあまり良いことはありませんね。
健康や病気も同じです。

ですから、まずはこの「滞」を取り除くことと、滞を生じさせない工夫が必要となります。

養生法としては、

◇全身をよく動かす
◇お腹を揉んで内臓の血流を促進させる
◇足湯をする
◇クヨクヨ悩まず、心も伸び伸びさせる

などを実践すると良いです。

《新型コロナウイルス感染症にみる滞》

いま、新型コロナウイルスが世界中に広まり、感染の広がりはもちろんですが、それに伴って、経済活動の停滞、精神不安の増加などが見られます。

疫病によって、社会が「留滞」し「瘀血」を生じています。
だから、色々と問題が起きています。

大事なことは、この「滞」をいかに取り除き、流れさせるか?にかかってくると思います。

もちろん、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の場合も同じことが言えるかも知れません。

《イタリア人医師の見解》

イタリア・ボローニャの「Sandro Giannini」医師は、新型コロナウイルス感染症における死亡理由を「静脈血栓塞栓症」であると発表しました。

Coronavirus: speranze dalla scoperta di Sandro Giannini

なんらかの原因により、静脈でできた「血栓(小さな血の固まり」が、肺へと流れ、肺の動脈を塞げば「肺塞栓」、脳の血管を塞げば「脳塞栓」となります。

これらの現象を「静脈血栓塞栓症」と言います。

血栓が出来る原因はいくつか考えられますが、過度の「炎症」によっても生じます。

この血栓は「瘀血」です。

サンドロ医師は、感染により炎症がおき、それが微小血栓を作り出して血管を塞ぐことで死亡される方が多いと述べられています。

(日本語訳)
https://note.com/carpe__diem/n/nda1cb4250e04

《中医師の見解》

次に、中国でCOVID-19患者を治療されてきた中医師たちの見解です。

それによると、この感染症は「寒・湿・熱・瘀・虚」の特徴を持ち、「湿盛」を伴う「脾虚」の人が罹患しやすく、「湿への対処が重視される」と述べられています。

「湿」とは、中医学や漢方医学の用語ですが、身体に留滞した余分な「水」のことです。

冒頭に書いた後藤艮山の理論にも「風寒湿」が「滞」を生むと書いてあります。

中医師の発表によると、

「体質によって反応は異なり、様々なパターン(病状)が現れるが、最終的には邪気が膜原に入り込み、全身の毛穴が遮断されてしまう。」

「いずれも、汚れて濁った邪気が膜原の奥深くに蓄えられ、気の機能を妨げていることが原因となる。」

と述べられています。

漢方理論がわからないと、あまりピンとこないかも知れませんが、病原体(毒)によって炎症、発熱が起こり、「湿」が増えて「瘀」となり、通り道を閉塞させてしまう病気だということです。

https://note.com/idononippon/n/nab95c0424bfc

機序としては、脾が弱り「湿邪(痰湿)」が生じます。
湿邪は、重くベタッとしているため「瘀」を生じやすくなります。

脾で作られた気血は、肺へ持ち上げられて、そこから全身へ散布されると考えますが、痰湿が強いため閉塞が生じやすくなります。
また、持ち上がらなかったものは下がって下腹部に溜まります。

それが「癥」となれば子宮で問題を起こし、「瘀」となれば微小血栓などを生じるわけです。

生じた瘀が肺へ行き、そこで詰まれば「肺塞栓」です。

イタリア人医師の「静脈血栓塞栓症である」という見解と通じます。

《自宅で出来る養生法》

とにもかくにも「滞」「瘀」を作らないように工夫しましょう。

最初の方でも挙げましたが、

◇全身を動かす(気功やヨーガがおすすめ)
◇お腹を揉んで内臓の血流を促進させる(按腹)
◇足湯をする
◇クヨクヨ悩まず、心も伸び伸びさせる

「経絡」はお腹(中焦)に始まり、「大腸・肺」と繋がります。
だからお腹をよくマッサージしてください。

可能な方は、

◇お灸をする
◇湿や瘀を取り去る漢方薬を飲む

カッサ

◇背中と腰に「吸玉」をする(カッサも良い)

ことも、ぜひお試しください。

例えば新型コロナウイルスに感染した場合、最初は「かぜ症候群」と同じような症状が出ます。
そうして、炎症がどんどん悪化し微小血栓、つまり「瘀」を生じさせ、瘀によって「閉塞」が生じて「呼吸困難」が生じる。

と言ったところでしょうか。
なんにせよ、瘀を取り去ることが要ですね。

今回は長くなってしまったので、次回は「井穴マッサージ」を紹介します。