漆と漢方薬と漆器のある暮らし

こんにちは、鍼灸担当の山本浩士です。

2022年にはいり、新しく始めた趣味があります。それは「漆器づくり」です。

随分前に、妻が気に入って買った湯呑みがヒビ割れ(欠けもある)てしまい、それを直せないか?と頼まれました。

器の修繕と言えば「金継ぎ」です。

あれカッコいいですよね。

色々調べるうちに、自分でも金継ぎが出来ることがわかり、そういうキットも販売されていることを知りました。

でも、中々難しそうやな・・・と思っていると、「ふきうるしキット」というものを見つけ、まず漆の扱いに慣れようと思いキットを購入したのが2021年の年末。

(堤淺吉漆店さんのふきうるしキット:https://www.kourin-urushi.com/?pid=157486836

 

2022年元旦。

まずは、自分で使っていた木のカップに漆を塗ることからスタートしました。

まーそれが面白くて、カップ、お箸、料理ナイフのハンドル材、木台、名刺箱、などなど。

日々使っていた品々に漆を塗り出して半年ちょっと経ちました。

漆塗りのための道具、漆、関連本なども少しづつ増えてきました。

乾燥に丸一日、あるいは1週間以上と必要になるので完成までに時間はかかりますが、1回の作業そのものは1時間ほど。最近は、仕事から戻ってから夜にゴソゴソと作業しているくらいです。

塗って乾かしていくと、なんとも言えない色艶になり、それがかっこいいんです。

どっぷり漆塗り、漆器の魅力にはまってしまいました。

~漆学~

漆塗りをしていると、そもそもの「漆」に興味が湧き、「漆学~植生、文化から有機化学まで~」という興味深い本を見つけて購入。読むほどに、日本人と漆の繋がりを感じます。 

漆は、約6000年以上前から人類(特にアジア圏)と深く関わってきた「天然塗料」と言われています。

福井県にある鳥浜貝塚から出土した漆の枝は、約12600年前のものと判明。その頃には日本に漆の木があったことを示しました。また、北海道にある垣ノ島B遺跡から出土した漆塗りの副葬品は、約9000年前に作られたものであったことが判明し、これは【世界最古の漆塗り製品】とされています。

漆は硬化能力が高く「耐久性」「耐水性」 に優れています。

さらに「浸透性」も高いため、漆器の中の酵素は生き続けることが出来るそうです。

酸性やアルカリ性のもの、塩分やアルコールなどへの「耐薬性」 も持ち「防虫」「防腐」といった 効果にも優れているので、カビの繁殖も抑えるそうです。

昔から食品などを保存する容器にも用いられてきたのも、なるほど納得です。

【漆桶にいれた水は腐らずいつまでも飲める】

【漆を塗った花器に生けた花は長持ちする】

という言い伝えもあるそうです。

漆は「塗料」ですが、加工をすることで「接着剤」「ペースト」「パテ」といった役割も果たします。だからこそ、器の修理に用いられてきたのでしょうね。

~withコロナ時代にこそ漆器~

そんな漆器の現代における最大の魅力は「抗菌効果」の高さではないでしょうか。

研究データによると、

・大腸菌

・サルモネラ菌

・腸炎ビブリオ菌

・MRSA

といった細菌を、漆を塗った板に塗布したところ、約4時間で半減、24時間後にはほぼ消失したそうです。

2021年には、福井の漆精製企業が「新型コロナウイルス」に対して同様の実験を行った結果、24時間で99%減少したそうです。

これは素晴らしいですね。世の中、様々な抗菌グッズ、抗ウイルスグッズが溢れていますが漆器も負けてはいません。

確かに漆器はええお値段しますが、昔は庶民が使い、壊れたら自分で漆を塗って修繕していたそうです。私は、そういう日常使いをしたくて漆塗りを始めてみました。

漆のかぶれを心配される方もいるでしょうが、キチンと乾燥させた漆器は、赤ちゃんでもほぼかぶれる事は無いと言うことです。

【化学物質や添加物を避けたい方】

【プラスチックなどを避けたい方】

【でも、抗菌や抗ウイルスは必要と感じる方】

このwithコロナ時代に、安心して使える食器のひとつとして「漆器」を使ってみるのも良いかもしれません。もし壊れても漆で修理をし、また使うことができるのも魅力のひとつです。

~漆と漢方薬~

漆は漢方医学とも関わってきました。

「和漢三才図絵」や「神農本草経」にも漆の項目があります。

現在の日本ではあまり使われないそうですが、主に「駆瘀剤」「駆虫剤」として用いられるようです。

【乾漆は虫を殺し、血の巡りをよくする。いつまでもなおらぬ凝結の瘀血を破り動かす。】

と書いてあります。漆の抗カビ、抗菌、抗ウイルス効果から考えても、納得の効果です。

 

~漆とお灸~

以前、和氣香風コラムにも書いた(https://kakikofu.com/knowledge/shinkyu/もぐさを使わないお灸!?/)のですが、「お灸」といっても色んな技法があります。

その一つに「薬物灸」と呼ばれる技法があります。その名のとおり、薬物を使うお灸なのですが、そのひとつに「漆灸」があります。

現在では、実施している鍼灸院はほぼ無いでしょう。私も、先生から話を聞いただけで、実際に体験したことはありませんが、興味だけはありました。

漆は、温暖な地域に分布する樹木の一種で、400~600の種があるそうです。

「ウルシ科」の植物には、マンゴーやピスタチオ、カシューナッツの木などもあります。

ウルシには「ウルシオール」という成分が含まれていて、それが皮膚に接触することで炎症(接触性皮膚炎)を起こします。塗料として使った場合、乾燥してしまえばかぶれることはありませんが、そうでないものは接触性皮膚炎を起こすことがあります。

例えばマンゴーには、それに似た成分(マンゴール)が含まれているので、マンゴーでかぶれる人もいますし、食べることでアレルギー反応を引き起こす人も少なくはありません。

漆灸は、ウルシオールによる「漆かぶれ」を意図的に引き起こすことを目的としています。

いわゆるお灸は、小さな火傷を作ることで体の治癒力を高めますが、漆灸はかぶれさせることで治癒力を引き出そうと考えられたのでしょう。

漆の木から樹液を採取し、伝統的な技法で精製すると「生漆」ができます。

それに、樟脳やひまし油、生薬などを混ぜたものを、経穴(ツボ)の上にチョンと置いて拭き取るシンプルな灸法です。

漆は、その直後に炎症は起きません。

数日後から発症し、約1ヶ月ほど続くと言います。

ちなみに、私も漆塗りをするときは、かぶれないための防御をいろいろしますが、今のところかぶれたことがありません。何度か、直接皮膚に触れたこともあるのですが、まだ大丈夫そうです。

漆は、縄文時代初期にはすでに日本人に使われており、さらには、工芸品だけではなく医療にも使われるほど、日本文化と深い繋がりがあります。

幸い、家に「生漆」がたくさんあるので、いずれ漆灸を作って自分でも試そうかなと考えています。

まずその前に、ボチボチ「金継ぎ」に着手しようと金継ぎキット「金継ぎコフレ」を購入しました。

これで、妻の湯呑みも復活させられるはず。

実家にも、何か割れた食器がないか聞いてみよう・・・何事も練習を積み重ねるのみ!ですね。

漢方鍼灸 和氣香風
鍼灸師 山本浩士

【自分でも漆塗りや金継ぎをしてみたい方へ】

いつも参考にしている「金継ぎ図書館」さん

インスタグラムで知り、自分でも漆塗りができることを教えてくれた「GNU」さん

いつも漆道具を購入している「堤淺吉漆店」さん