食後の眠気は脾の弱り

先日、食後「急な眠気」に襲われました。
少し仮眠をとってもまだ身体の怠さがあったので、バナナジュースを飲みました。

しばらくすると、さっきまでの眠気や怠さが消えていて、むしろ元気になっているのに気がつきました。

《糖質は身体に必要》

人体は主に「糖質・脂質・タンパク質」の3つを栄養素として活動しています。
この3つを「三大栄養素」といいます。

この中の「糖質」ですが、いちばん糖を必要とするのは「脳」です。

炭水化物などから変化された糖質は、「グルコース」つまり「ブドウ糖」に変換され、主に脳で消費されます。

頭脳をよく使う仕事の方や受験生は、脳を過剰に使うため糖をどんどん消費します。
さらに消費をすると、他の臓器で使うはずのブドウ糖まで脳に送り込ませるようになります。

こうなると血中の糖が減るため、肝臓などに蓄えられた「グリコーゲン(グルコースが幾つか繋がった状態)」や「脂質」を分解して緊急使用しますが、それにも限度があります。

その状況でもまだブドウ糖を消費すると、ついには糖が足りなくなり脳神経の機能が低下します。
すると神経障害や意識障害、さまざまな問題が起こります。

ですので、勉強や仕事で頭脳を使ったあとは、「糖質」を適度に摂取してエネルギー補給をすれば元気になります。

《高血糖と糖尿病》

ただ、糖をたくさん摂取すると、当たり前ですが血中の糖質濃度が上がります。
これが「高血糖」という状態です。

糖は体に必要な栄養素のため、外に排出されず「腎臓で再吸収」されます。
しかし、高血糖の状態が続くと、腎臓は過剰な糖を「尿」として排出させて血中濃度の調整をします。

その時に、身体の「水分」を一緒に排出するため、「喉が乾く」という症状が現れやすくなります。
同時に、オシッコの量や回数も増える傾向が現れます。
これが「口渇」と「多尿」です。

高血糖が引き起こす「脱水症状」ということです。

また、血液中に糖が多いため「血流」が悪くなります。
そうして、抹消の循環不全が起こりやすくなります。
「冷え」「浮腫」などが見られます。

糖を多く含んだ尿は「粘り気」があるため、オシッコが「泡立つ」という事もよく見られます。

さらに、ほかの栄養素や血中成分がしっかり送られなくなり、「傷が治りにくい」という症状も出やすくなります。

通常なら、こうなる前に「膵臓」から「インスリン」が分泌され、血糖値を下げてくれるので特に心配はいりません。

しかし、あまりにも血中の糖質が多いと、インスリンを出す膵臓が疲れてしまいます。
そうして、インスリンの量が減り、やがては出すことも難しくなります。

そうすると、さらに高血糖の状態が続きます。
これがいわゆる「糖尿病」です。

先天的なものと、後天的なものがあります。

このように、なんらかの理由で膵臓の機能が低下し、インスリンが出せなくなれば命に関わるため、人工的にインスリン注射をして血糖値を下げるようにします。

《低血糖と糖質スパイク》

血中の糖が増えると、膵臓からインスリンが分泌され血糖値を下げてくれます。
通常であれば、緩やかに血糖値があがり、緩やかに下がっていきます。

しかし、甘いものを沢山食べたりすると、血糖値が一気に上がります。
そのため、膵臓も大量にインスリンを分泌します。

すると、今後は逆に「低血糖」という状態になります。

一気に上がり、一気に下がる。
これを「糖質スパイク」と言います。

例えば、糖尿病の方はインスリン注射をするのですが、低血糖を起こす可能性があるため、少し糖を補給する必要があります。
糖尿病の方の多くが、かばんに「飴」などを入れて持ち歩いているかと思います。

「食後の急な眠気」
というのは、この糖質スパイクによっていきなり「低血糖」状態に陥ることによって引き起こされます。
糖尿病でなくても起こります。

この場合の「低血糖」は、その前に「高血糖」が隠れている可能性が高いので要注意です。

《膵臓の機能》

膵臓は、15センチほどの細長い臓器で、消化管の一つです。

膵臓の頭部は「十二指腸」に繋がり、尾部は脾臓にまで達します。
鳩尾の下あたりから、左の肋骨下部にかけて伸びている感じですね。

膵臓は「膵液」と呼ばれる消化液を出す「外分泌部」と、数種類のホルモンを出す「内分泌部」を併せ持っています。

膵臓機能の95%以上が「外分泌部」と言われ、ここで放出される膵液は、「三大栄養素の全てを消化できる」ほど優れた消化液です。

残りは「内分泌部」で「ランゲルハンス島」と呼ばれています。

・α細胞(A細胞) = グルカゴンを分泌
・β細胞(B細胞) = インスリンを分泌
・δ細胞(D細胞) = ソマトスタチンを分泌
・PP細胞 = 膵ポリペプチドを分泌

という具合に機能がわかれています。

糖は必要な栄養素ですが、基本的には飲食物で補給します。

現代は飽食の時代で、糖質過多になりやすいのですが、ハードな運動中や、食糧難の時代や地域では低血糖になりがちです。

そのため「グルカゴン」というホルモンが肝臓に働きかけ、肝臓や筋肉に蓄えられていた「グリコーゲン」を分解(解凍)するよう指示を出します。
グリコーゲンはグルコースに分解され、ブドウ糖となって再利用されます。
つまり「血糖値を上げる」ホルモンです。

グルカゴンが出ると、同時に脳の「視床下部」も刺激され、「交感神経」が働きはじめます。
そうして、「副腎」から「アドレナリン」「糖質コルチコイド」が分泌されます。
これらは、血糖値を上昇させる働きがあります。

このように、低血糖になると交感神経が興奮して血糖値を上げるように働きます。
そのため、

・脈が早くなる
・汗をかく
・顔面が蒼白になる
・イライラする
・不安感が出てくる
・手足が震える

というような自律神経症状が現れやすくなります。

血糖値は上がりすぎても困りますので、それを下げるために「インスリン」が分泌されます。

ただ、インスリンが出過ぎると「低血糖」になってしまいます。
先ほどの「糖質スパイク」ですね。

血糖値が下がると、

・生あくびが出る
・眠気に襲われる
・集中力が切れる
・目が霞む
・頭が痛くなる

という症状が現れ、さらに下がると、

・意識混濁
・昏睡
・言動がおかしくなる
・痙攣

という末期症状が現れてきます。

血糖値は上がりすぎても下がりすぎても問題を起こします。
そのため「ソマトスタチン」というホルモンが分泌されます。

ソマトスタチンの働きのひとつが「インスリンとグルカゴンの産生の抑制」です。
つまり、血糖値のバランスを取るために働くホルモンと言えます。

なんらかの原因(例えば膵炎や糖尿病や腫瘍)により、膵臓の機能が働かなくなると、

・消化がうまくできず体重が減る
・消化液が過剰になり下痢をする
・血糖値の問題が起こる
・末梢神経障害や血行障害がおこる
・傷が治りにくくなる
・意識障害などがおこる

このようにさまざまな問題が起こりやすくなります。

「糖質オフ」も大事です。
しかし「糖質」は大事です。体調に合わせて食事を見直してみましょう。

「ご飯を食べるとすぐ眠くなる」という症状のある方は、糖質スパイクを起こしている可能性があります。

同時に、日常的に血糖値がたかく、膵臓が疲弊して上手に血糖値のコントロールが出来ていないかも知れません。

何事もバランスが大事ですね。
糖質スパイクが思い当たる方は、炭水化物やスイーツの量を減らし、ゆっくり噛んで食べるようにしましょう。

ゆっくり糖質が吸収されれば、急な下降は起こりにくく、食後の眠気を防ぎやすくなることでしょう。

《漢方医学の脾》

今度は漢方の視点からみてみます。

まず、漢方における臓腑には「膵臓」はありません。
中国では「胰臓(いぞう)」とも呼ばれていたようですが、今は使われていません。

代わりに「脾」があります。
この脾は、現代解剖学の「脾臓」とは異なり、言ってしまえば「膵臓+脾臓=脾」という感じが近いかも知れません。

厳密に言えば、現代医学の内臓と、漢方医学の臓腑は根本的に概念が異なるため、全く同じにはなりません。
ただ、当てはめればこうかな・・・という解釈は可能ですが、正しい解釈ではないということを理解しておく必要があります。

「脾」には色々と働きがあります。

ひとつは、食べたものを消化、吸収し、それを「気血」に変化させて全身へ送り出し、全身の水分代謝を調整する機能です。
これを「運化」と言います。

次に、血液が血管の外に漏れることを防ぐ「統血」です。

また、脾によって飲食物(水穀)が消化され、全身の筋肉などを栄養させるため、脾は筋肉や手足をコントロールするとも考えられています。

さらに「思」「考」「憂」という意識、感情の働きにも影響すると考えられています。

脾の機能が低下(虚)すると、

・消化吸収力低下
・内臓下垂
・下痢や脱肛
・浮腫
・血便や血尿、出血傾向が見られる
・元気、やる気、気力が低下
・慢性的な肉体疲労
・食欲低下
・膨満感
・顔面蒼白や手足の冷え
・口渇やほてり
・あくびやゲップ、しゃっくりが出る
・目が薄黄色になる

というような症状が見られやすくなります。

実際には、細かい漢方の弁証(見立て)があるのですが、それを省いて総合的に羅列してみました。

脾は心、肝、肺、腎などにも繋がっているため、脾が弱ることで他の臓器にも影響が出ます。

「食後に眠くなる」という相談もよくあるのですが、漢方医学では「脾虚」「脾気虚」と考えます。

食事をすると、消化吸収するために「気」が消化器官に集まって消化吸収活動を始めます。

通常であれば問題はないのですが、すでに「虚」の状態にあると、脳や筋肉、他の臓器に散っていた「気」も脾に集められることになります。

そのため筋肉や脳には気血が足りなくなり、「疲労感」「倦怠感」「眠気」が出てくるのです。

現代医学の「膵臓」が、そもそも元気であれば、血糖値のコントロールはうまく行われますが、膵臓が疲弊しているとコントロールがうまくできません。

ましてや、糖質をたくさん食べると、血糖値を下げるためのインスリンを沢山放出させ「糖質スパイク」が起こります。

これは漢方の「脾虚」にも通じるものがあります。

また、血糖値のアンバランスから生じる様々な肉体症状は、「脾」の機能低下の内容にとても近いものがあります。

例えば「脾虚」になると「肝実・肝火」という状態になりやすいのですが、低血糖になると肝臓などからブドウ糖が再合成されますが、同時に交感神経が興奮してイライラしたり不安感が出ます。
これは「肝の実=肝火・肝陽」という症状と似ています。

「食後は眠くなるんです」
という方の多くは、やはり「脾虚」が多く、それを改善させる漢方薬や鍼灸をおこなっていきます。

《お灸で脾を活性化》

糖尿病や膵炎の方はもちろん、日頃から疲労感が抜けない方、日中に眠くなる方、不安感が常にある方、手足の冷えやむくみのある方なんかは、ぜひ自宅でセルフお灸を実践してください。

・中脘 : 鳩尾とへその中間点、正中線上

このツボは、脾を元気にしてくれるツボであり、膵臓の上辺りにあるツボです。

ここにお灸をして、熱刺激により血流が促進されると、その周囲の臓器の血流もよくなります。

あとは、

・足三里

https://kakikofu.com/knowledge/shinkyu/徒然草の養生灸/

も一緒にやっておくと良いですね。

もし、誰かにやってもらえるなら、

・胃の六つ灸

もオススメします。
左右の「隔兪」「肝兪」「脾兪」の6箇所にお灸をします。

胃腸の問題、膵臓の問題、肝臓の問題、胆嚢の問題、脾臓の問題、腎臓の問題などなど、内臓の諸症状に効果的です。

中脘や足三里と組み合わせると良いですね。

ぜひお試しください。

「脾は乾燥を好む」と言われます。
だから、飲食物を「運化」させて、湿気のない環境を作ろうとするわけです。

水分を大量に摂取すると、脾には大きな負担となります。
苦手な「湿気(水分)」を排出するために、いつも以上に働きます。
そのため疲弊して「脾虚」になります。

脾虚になると、運化ができなくなるので水分代謝が悪くなり「浮腫」「冷え」「身体の重怠さ」などが現れます。

ですから、湿気の多い「梅雨時」「秋雨時」は、特に脾を強くするよう意識すると良いですね。

舌を見た時に、舌の横に「歯型」がついていると、脾虚が疑われます。
「苔」がベタっとついていると、脾虚による運化が出来ず「湿」が溜まった状態が考えられます。
ぜひ、ご自身の「舌」を見てください。

妻「小林香里」が監修した本「漢方薬絵ずかん」もぜひ参考になさってください!!

「お灸レッスンをして欲しい」という方は、薬日本堂漢方スクールでのお灸レッスンか、和氣香風でのパーソナルレッスンにお越しください。